「令和5年度税制改正大綱」から注目のポイント
令和5年度税制改正大綱が昨年12月に公表されました。資産課税(相続税・贈与税)に関して2点大きな改正が行われる見込みですのでご紹介したいと思います。
① 相続税の計算上加算する生前贈与の期間延長
現行制度では、相続開始以前3年以内の暦年贈与を相続財産として加算する必要があります。この期間が3年から7年に延長されます。また、延長された4年間の間に贈与された財産については合計100万円までは相続財産に加算されません。
② 相続時精算課税制度の見直し
相続時精算課税制度を選択した場合には、選択した年分以降すべてこの制度が適用されるため、少額の贈与であってもその都度贈与税の申告が必要でした。今回の改正で相続時精算課税制度の中に基礎控除(年110万円)が創設されました。これにより年間110万円以下の贈与であれば申告不要となりました。
また今までは、相続発生時に相続時精算課税制度適用以後のすべての贈与財産を相続財産に加算して相続税申告をしなければいけませんでしたが、基礎控除の年110万円以内の贈与に関しては相続財産に加算されないこととなりました。
注意点としては、暦年課税制度の場合には①により7年以内の110万円以下の贈与は相続財産に加算される対象となりますが、相続時精算課税制度の場合には年110万円以下の贈与であれば相続財産に加算されません。
令和6年1月1日以後の贈与に適用される見込みです。
この2点の改正により相続時精算課税制度の利用が増加すると思われます。なお、これらの改正は国会の審議を経て、逐次具体的な細目が決定されることとなります。詳しくは監査担当者までご相談ください。
タックス総研富山南事務所 河原 佳祐
令和5年度税制改正の大綱の概要
(令和4年12月23日 閣議決定)出典:財務省
家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うとともに、スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化するための税制上の措置を講ずる。また、より公平で中立的な税制の実現に向け、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置の導入、グローバル・ミニマム課税の導入及び資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築を行う。加えて、自動車重量税のエコカー減税や自動車税等の環境性能割等を見直す。租税特別措置については、それぞれの性質等に応じ適切な適用期限を設定する。具体的には、Ⅰのとおり税制改正を行うものとする。また、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置について、Ⅱのとおり決定する。
Ⅰ 令和5年度税制改正
個人所得課税
○ NISA制度の抜本的拡充・恒久化
- 非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とする。
- 一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の年間投資上限額(「つみたて投資枠」)については、120万円に拡充する。
- 上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「成長投資枠」の年間投資上限額については、240万円に拡充するとともに、「つみたて投資枠」との併用を可能とする。
- 一生涯にわたる非課税限度額を新たに設定した上で、1,800万円とし、「成長投資枠」については、その内数として1,200万円とする。
- 以上の措置は、令和6年1月から適用する。
○ スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設
- 保有株式の譲渡益を元手に、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行った場合に、再投資分につき20億円を上限として株式譲渡益に課税しない制度を創設する。
- スタートアップへの再投資に係る非課税措置及び課税繰延べについては、創業者は事業実態が認められれば適用が受けられるようにするほか、プレシード・シード期のスタートアップに係る外部資本要件を1/6以上から1/20以上に引き下げるなど、要件の緩和を行う。
○ 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
- その年分の基準所得金額から3億3,000万円を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税を課する措置を講じ、令和7年分以後の所得税について適用する。
○ 特定非常災害に係る損失の繰越控除の見直し
- 特定非常災害法上の特定非常災害による損失に係る雑損失及び純損失の繰越期間について、損失の程度や記帳水準に応じ、例外的に3年から5年に延長する。
資産課税
○ 資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築等
- 相続時精算課税制度について、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするほか、相続時精算課税で受贈した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時にその課税価格を再計算する見直しを行う。
- 暦年課税における相続前贈与の加算期間を7年に延長するほか、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100万円)については、相続財産に加算しないこととする見直しを行う。
- 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を3年延長する。
- 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を2年延長する。
法人課税
○ 研究開発税制の見直し
- 控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(現行:2%→1%)を行うとともに、試験研究費の増減割合に応じて税額控除の上限を変動させる制度(現行:25%→20%~30%)を設ける。
- 試験研究費のうち新たなサービスの開発に係る一定の費用について、既に有する大量の情報を用いる場合についても対象とするほか、所要の見直しを行う。
○ 企業による先導的人材投資に係る税制措置
- 法人が大学、高等専門学校又は一定の専門学校を設置する学校法人の設立を目的とする法人に対して支出する寄附金であって、その設立のための費用に充てられるものを指定寄附金とする。
- 特別試験研究費の対象費用に、博士号取得者又は一定の研究業務の経験を有する者に対する人件費を追加し、税額控除率を20%とする。
○ オープンイノベーション促進税制の見直し
- 発行法人以外の者から購入により取得した株式でその取得により総株主の議決権の過半数を有することとなるものを、税制の対象となる特定株式に加える。
消費課税
○ 適格請求書等保存方式の円滑な実施に向けた所要の措置
- これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずる。
- 一定規模以下の事業者の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずるほか、少額の返還インボイスについて交付義務を免除する措置を講ずる。
○ 承認酒類製造者に対する酒税の税率の特例措置の創設
- 酒税の保全のために酒類業の健全な発達に資する取組を適正かつ確実に行うことについて承認を受けた酒類製造者に係る一定の酒類について、製造規模に応じて酒税を軽減する措置を講ずる。あわせて、現行の酒税の特例措置は廃止し、新たな特例措置への移行に伴う激変緩和のための経過措置を講ずる。
○ 車体課税
- 自動車重量税のエコカー減税について、異例の措置として現行制度を令和5年末まで据え置くほか、据置期間後は、制度の対象となる2030基準達成度の下限を3年間で段階的に80%まで引き上げる等の所要の措置を講ずる。
- 自動車税・軽自動車税の環境性能割について、異例の措置として現行の税率区分を令和5年末まで据え置くとともに、3年間で段階的に引き上げる。
- 自動車税・軽自動車税の種別割におけるグリーン化特例について、3年間延長する。
- メーカーの不正行為によって自動車税環境性能割等の納付不足額が発生した場合の特例について、納付不足額を徴収する際に加算する割合(現行:10%)を35%に引き上げる。
国際課税
○ グローバル・ミニマム課税への対応
- グローバル・ミニマム課税について、所得合算ルールに係る法制化を行うため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)及び特定基準法人税額に対する地方法人税(仮称)を創設する。その際、法人税による税額と地方法人税による税額が907:93 の比率となるよう制度を措置するとともに、対象企業の事務手続きの簡素化に資する措置を導入する。
- 外国子会社合算税制について、特定外国関係会社の適用免除要件である租税負担割合の閾値引下げ等の見直しを行う。
納税環境整備
○ 電子帳簿等保存制度の見直し
- 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずるとともに、検索機能の確保の要件について緩和措置を講ずる。
- 過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿について、その範囲を合理化・明確化する。
○ 課税・徴収関係の整備・適正化
- 申告義務を認識していなかったとは言い難い高額な無申告に対し、無申告加算税の割合を引き上げる。また、連年にわたって繰り返し無申告加算税等を課される者が行う更なる無申告に課される無申告加算税等を加重する措置を講ずる。
○ ふるさと納税における前指定対象期間に係る基準不適合等への対応
- ふるさと納税の指定制度に関し、前の指定対象期間における基準不適合等の事案について、2年前にまで遡って取消事由とできることとする。
関税
○ 暫定税率等の適用期限の延長等
- 令和4年度末に適用期限の到来する暫定税率(412品目)の適用期限を1年延長する等の措置を講ずる。
○ 急増する輸入貨物への対応
- 輸入申告項目に「通販貨物の該否」及び「国内配送先」等を追加する。
- 税関事務管理人制度について、非居住者による届出がない場合、税関長が国内関連者を税関事務管理人として指定できる等の規定の整備を行う。
Ⅱ 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。
① 法人税
法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする。
② 所得税
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。
廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。
③ たばこ税
3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。
以上の措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする。