【コラム】賃上げ実現と取引の適正化

価格転嫁が困難な理由

中小企業が取引先に対して、労務費や原材料費、エネルギーコスト等の上昇分を適切に転嫁できないという問題が生じています。適切な価格転嫁ができない理由には様々なものがあるでしょうが、一つには中小企業と取引先との関係性(力関係)に起因していることが挙げられます。
ある中小企業において、その取引先との取引継続が困難になると、自社の経営に大きな影響を及ぼすことになると考えた場合、取引先からコストの上昇分を価格に反映せず、従前の取引価格に据え置くことを求められたとしても、今後の取引継続を第一に考えて、これを受け入れざるを得ないということもあります。又は、中小企業自身から今後の取引継続を求めるため、コスト上昇分の価格転嫁を控え、従前の取引価格を取引先に提案することもあり得ます。
いずれの場合でも、これを放置すれば価格転嫁ができないことによる原資の不足から、中小企業における賃上げの実現も困難になります。

取引適正化についての政府の考え

このように中小企業が、取引先に対して適正な価格転嫁ができない要因を法律的な側面から見た場合には、独占禁止法(以下「独禁法」)や下請法の問題と捉えることができます。政府は、中小企業が取引先に対して、適切な価格転嫁を行い、賃上げの原資を確保することができるように、独禁法や下請法の執行を強化しています。
また、政府は「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を策定して、政府全体で転嫁対策に取り組んでいくことを公表しています。具体的な例として政府は、価格転嫁対策について独禁法と下請法の執行強化のほか、労働基準監督機関(都道府県労働局及び労働基準監督署)における対応として、最低賃金や賃金・残業代の不払いが疑われる事業場に対して、上記機関が監督指導を実施して是正を図るとしています。これは、適正な価格転嫁ができないことの皺寄せが、末端の労働者に及ぶのを防ぐことを目的としていると思われます。なお、これらの施策では、中小企業にも政府の取組みなどを理解しつつ、適正な価格転嫁の実現、ひいては賃上げの実現に向けた努力が求められます。